気になるのは、外の世界だけじゃない。
探究テーマというと、自然現象や社会課題など、自分の外側にあるものを調べるイメージがあるかもしれない。しかし、自分自身が今困っていること、周りの人とは少し違うなと感じることも、研究の出発点となる。そうした一人ひとりの切実な違和感を、研究や開発として形にする後押しをしたいという思いから、サイエンスキャッスル研究費 DE&I賞は2023年に生まれた。
自分が感じた違和感が、研究の出発点になる
人には小さく見えても、本人にとっては切実な違和感がある。そうした自分にとっての一大事を観察し、言葉にし、他者と共有できる問いにしていく。それが、このプログラムで大切にしている「自分研究」だ。自分だけの個人的な課題だと思っていたことも、研究し、発信することで、周囲に理解者が増えたり、同じような違和感を抱える誰かの助けになったりすることがある。これまでのDE&I賞でも、話しかけたいのに声をかけられない理由、教室や保健室で自分が安心できる条件、先延ばししてしまう行動パターンなど、生徒自身の経験や感覚から生まれたテーマが研究されてきた。
小さく試すことで、問いは育っていく
自分研究の入口は、周囲の誰かではなく、自分自身の中にある。はじめは、まだうまく言葉になっていなくてもかまわない。その違和感がいつ、どこで、誰といる時に起きるのかを見つめ、記録する、話を聞く、道具を試す、行動を少し変える。そんな小さな一歩から、研究や開発のテーマは育っていく。採択後は、専門家やリバネススタッフが研究コーチとして伴走し、問いの整理や進め方を一緒に考えていく。例えば、身近な人の聞こえにくさを補う道具をつくりたいと考えていた生徒は、当初「似たような製品があるなら、自分が取り組む意味はないのでは」と悩んでいた。メンタリングを通して、既存の道具では解決しきれていない身近な困りごとに目を向けるようになった。また、完成品を目指すのではなく小さな試作から始めてもよいことに気づき、振動で情報を伝えるメガネの開発に踏み出した。自分だけではどうしようもないと思っていたことに、研究という方法で関わり直してみる。その過程で、自分にできることが見えてきたり、悩みとの向き合い方が変わったりすることも、このプログラムの大きな魅力だ。
自分研究に向き合う仲間と出会う
自分の問いに向き合うことは、時に「これでいいのだろうか」と迷いながら進む挑戦でもある。だからこそ、このプログラムでは、自分と同じように違和感をきっかけに研究を始めた仲間や、その問いに耳を傾けてくれる大人との出会いも大切にしている。これまでに参加した生徒からは、「自分の研究に耳を傾けてくれる人がいること、あたたかい態度で聞いてくれることが本当に心の支えになった」という声もあった。他者が感じた違和感を「大したことない」と流さず、すぐに答えを押しつけることもない。そんな人との出会いこそが、自分の問いに向き合い続ける力になる。
まだ言葉にならない違和感も、自分にとって切実であれば、それは研究のはじまりだ。自分の中にある思いや違和感を見つめ、研究や開発として形にしていってみてほしい。(文・大島 友樹)